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広島家庭裁判所 平成12年(少)327号 決定

少年 Y・Z(昭和57.8.10生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、平成12年3月21日午後2時02分ころ、広島市中区○○町××番×号○△店内において、興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する劇物で、政令で定められたトルエンを含有するシンナーをみだりに吸入した。

(補足説明)

少年は、前記非行事実につき、前記日時にシンナーを吸引した事実を否認するが、当裁判所は、技術吏員作成の平成12年3月24日付け鑑定結果書(謄本)における鑑定結果(事件当日に採取された少年の尿からトルエンが検出されている。)、A子の司法警察員に対する同月22日付け供述調書(謄本)(A子は、前記日時に少年とともにシンナーを吸引した旨を供述している。)及び司法警察員作成の同月21日付け捜査状況報告書(司法警察員○□は、少年が前記日時場所においてビニール袋を口に当てていたところを現認し、少年の口臭からシンナー臭がはっきりと認められた旨を報告している。)により、前記シンナー吸引の事実は明らかであると考える。

A子は、本件が発覚した当初においては、少年と同様にシンナー吸引事実を否認していたものの、事件翌日の取調べにおいて、A子自身がシンナーを吸引したという自己に不利益な事実をまじえ、少年がシンナーを吸引した旨を供述しており、その供述内容も、少年が前記日時場所においてシンナーの入ったビニール袋を所持していた理由を合理的に説明するに足りるものであって、前記鑑定結果及び前記捜査状況報告書とも符号しており、信用するに値するものである。また、前記捜査状況報告書は、司法警察員が通常の職務の過程で作成したものであって、虚偽の事実が記載されたことを窺わせる事情は全くなく、前記鑑定結果及び前記A子供述とも符号するものであるから、十分に信用することができる。

少年の司法警察員に対する同年4月3日付け供述調書及び当審判廷における供述の概要は、前記○△前路上において前記ビニール袋を発見した、ビニール袋の中からシンナーの臭いがしたので、落とし物として警察に届けようと考えてこれを拾得し、同店内に入ったところ、警察官に補導された、少年もA子もシンナーを吸引していない、同年3月19日の午前3時から5時ころにシンナーを吸引しており、シンナーを吸引したのはこの1回だけであるから、尿からトルエンが検出されたのはそのためだと思う、というものである。しかしながら、少年の前記ビニール袋を所持するに至る経緯に関する供述はいかにも不自然なものである上、前記捜査状況報告書及び少年の司法警察員に対する同月21日付け供述調書によれば、少年は事件当日においてはかかる趣旨の供述を全くしていないことが認められるし、供述全体の趣旨が前記A子供述・捜査状況報告書と全く相反するものであるから、少年の供述を信用することはできない。また、司法警察員作成の同月28日付け捜査状況報告書(1丁のもの)によれば、シンナー(トルエン)を体内から検出できる期間は通常吸入後24時間程度であることが認められるから、同月19日午前3時から5時ころに吸入されたトルエンが、前記認定の非行日時(同月21日午後2時02分)より後に採取された尿から検出されることは考え難く、同月19日より後にシンナーを吸引していないという少年の供述もまた信用することができない。

(法令の適用)

毒物及び劇物取締法24条の3、3条の3、同法施行令32条の2

なお、少年については平成12年(少)第327号ぐ犯保護事件が係属し、そのぐ犯事実及びぐ犯性は、「少年は、平成10年ころから、暴走族に加入して暴走行為を繰り返し、親の監護に服さず、夜遊びやシンナー吸引を繰り返し、高等学校中退後、進学することも就職することもなく暴走族のメンバーとして暴走行為を敢行し、喫煙、深夜徘徊、シンナー吸引、無断外泊等を繰り返し、平成12年3月21日午後2時ころ、警察官によりシンナー吸引行為を現認されたが、シンナー吸引事実を否認し、氏名、住居等を黙して語らなかった。少年をこのまま放置すれば、少年の性格及び環境に照らし、将来、毒物及び劇物取締法違反等の犯罪を犯すおそれがある。」というものであるが、前記認定の非行事実は、前記ぐ犯事実から認められるぐ犯性が現実化したものである(平成12年3月21日のシンナー吸引行為は前記非行事実そのものである。)ことが明らかであるから、前記ぐ犯事実は、前記非行事実に吸引され、要保護性に関する事実として考慮すれば足りるものというべきである。したがって、前記ぐ犯事実については非行事実として摘示しないこととする。

(処遇の理由)

1  本件は、少年がシンナーをみだりに吸引した事案であり、少年の行為には常習性が顕著にみられ、その責任は重い。

2  少年は、中学時代から窃盗や無免許運転を繰り返し、平成10年ころから暴走族に加入して暴走行為を繰り返し、親の監護に服さず、夜遊びやシンナー吸引を繰り返すようになり、平成11年8月、平成10年5月に敢行した窃盗、無免許運転等の各非行の件で保護観察決定を受けた。少年は、平成11年9月、同年7月に敢行した窃盗見張り(共同正犯)の件で観護措置を経た上試験観察に付されたところ、同年10月、試験観察中にもかかわらず万引行為に及び、平成12年3月21日、前記窃盗見張り・万引の各非行の審判において、父母からシンナー吸引について指摘を受けるも、吸引していない旨の虚偽の供述に終始し、保護観察決定を受けたが、同日の午後に白昼堂々と公衆の面前で本件非行を敢行した。少年は、当審判廷においても、シンナーを吸引していた事実自体は認めているにもかかわらずそのことに対する反省の態度はなく、これまで何度も更生の機会を与えられたのにその都度周りの人々を裏切ってきたことに対する認識が浅いというほかはない。少年は、試験観察中も父母の指導に従わず、シンナー吸引行為を繰り返しており、暴走族は脱退しているものの暴走族関係者との交遊を続け、深夜徘徊、無断外泊等を繰り返す状況にあり、もはや父母の監護により少年をシンナー吸引行為や不良交遊から切り離すことは極めて困難といわざるを得ない。また、少年がシンナー依存から脱却するためには、本人の強い自覚が不可欠であるところ、現在の少年にはその自覚が皆無である。そうすると、少年に対し、在宅での処遇を施しても、規範意識の乏しいまま、不良交遊を改めず、シンナー吸引等の非行を繰り返すおそれが強い。したがって、少年に自己の問題性を自覚させ、内省を深めさせるとともに、非行を繰り返させないようにするには、少年院という統制された環境の中で、長期間の綿密な矯正教育を施すのが相当である。

3  よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 松井修)

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